夏の発表会ではコッペリアのディヴェルティスマンをやります。
ディヴェルティスマンとはフランス語で「気晴らし」「娯楽」の意味で、幕物の中の小品集といったところでしょう
か。
コッペリアのディヴェルティスマンについて、こどものころからずっと疑問におもっていたことがありました。
それはなぜ村人と妖精みたいな人の衣装があるのか、ということです。
今まで見るたびになぜかしらと思いつつ流してきたのですが、発表会でコッペリアをやるのでちゃんとしらべてみよ
うと思いました。
村人風の人しかいない、というバレエ団もありますが、たいてい妖精感(貴族ではない)のある衣装が「時の踊り、
曙、祈り」あたりで出てきます。
メジャーなバレエでそういうのってないなあと思って。ジゼルは村人、貴族のみ。二幕は別世界ですね。ド
ンキはスペインと夢の世界。白鳥は貴族とちょっと村人、二幕四幕は別世界。眠りはみんなおとぎばなしだからいい
として。くるみも貴族のおうち、あとは夢の世界。というようにちゃんと幕によって現実世界と夢の世界が隔てられ
ているのです。
ところがコッペリアはしれっと村人感のある人と妖精感のある人が一緒にいる。村人たちが妖精に扮しているのか
い?わけもなくなぜそんな豪奢な衣装を?
というわけで参考文献を探してみました。まずは原作となった「砂男」を読んでみましたが人形に恋をするという点
しか似ていないので参考にならず。こういう話こわいよう。
そしてありましたありました、いいのがありました。
『19世紀フランス・バレエの台本ーパリ・オペラ座』慶應義塾大学出版会、平林正治、2000年。
まずは、ロマンティックバレエについて論じられた序章があり、続いてロマンティック・バレエの台本が列挙されて
います。「現実と夢想という二つの異次元の対峙がバレエ・ロマンティックの特徴」なのだそうです。代表的なもの
は「ラ・シルフィード」ですよね。あとは有名なところではパキータや海賊、ジゼル、シルヴィアなどもロマン
ティックバレエです。そして最後のロマンティックバレエといわれるのがコッペリア。
ロマンティックチュチュから連想されるように、白いバレエが想念されるかもしれませんが、ここでいうロマン
ティックは18世紀後半から19世紀初頭にフランスを席巻した、ロマン主義に由来しているのです。
話をもとに戻すと、コッペリアの台本を読んでちょっと納得いきました!
ディヴェルティスマンの部分はなんと「鐘の祭り」という詩でできているのです。
鐘の祭り
鐘つき男が山車から最初に降りる。
夜は朝の時を呼ぶ。 時たちのヴァルス。
朝の時たちがやってきて、間もなく曙が続くが、彼女は小さな野の花々に取り巻かれて現れる。
鐘が鳴る。それは祈りの時だ。
曙は消え、昼の時たちが取って代わる。
それは仕事の時たちだ。紡女たち、借り入れ女達が仕事を始める。
鐘がまた鳴る。それは結婚式を告げ、婚姻が小さな愛の天使を連れて現れる。
突然、不気味な響きが空気を揺り動かす。それは戦争だ、それは不和だ。武器が振り上げられ、戦火の閃光が暗く
なった空を照らす。
しかしすべては静まる。先ほど、武器をとれと呼びかけていた鐘は、平和の回復を祝う。不和は克服され、夕べと夜
の時たちとともに。遊楽と遊戯が始まる。
最後のディヴェルティスマン。
なんだって。
つまり、時のワルツやあけぼのは人間じゃないんだね。ちょっと納得いきましたがみなさんはいかがでしょうか。
そのつぎの疑問は、舞台となったガリツィア。ガリツィアって歴史的にいささか剣呑な地域です。
ロマンティック・バレエの特徴として、「異国」や「地方」が出てくることは自明ですが、コッペリアが上演された
1870年ごろ、ガリツィアってフランスの人々にとってどうだったんだろう。と思いました。
また調べて書いてみたいとおもいます♡